この春に開催された2024年秋冬コレクションの見どころは、女性の「多様性に新たな視点」が現れたことだった。ファッションは、コロナ禍を経て台頭したクワイエットラグジュアリーから、遊び心に満ちて、ロマンチックさを求めた新たなステージへと急速に方向転換している。

脱定番、脱クラッシックへと走るファッショントレンドにおいて、新たなフェミニニティのあり方を象徴したのが、幅広い年齢層のモデルの起用であった。多様化が進むなかで「ジェンダーレス」「ボディポジティブ」に続き「エイジズム(年齢差別)」への答えが見え始めた。

“人生と共に変化する服”をテーマに掲げた「ミュウミュウ」

最もわかりやすく強いメッセージを発したのは、ミウッチャ・プラダ率いる「ミュウミュウ」だった。若いモデルたちに混じって、64歳の英国女優クリスティン・トーマス・スコットをはじめ、ショートフィルムプロジェクト「MIU MIU WOMEN’S TALES (女性たちの物語) 」にも出演した69歳のスペインの女優アンヘラ・モリーナ、「ミュウミュウ」の大ファンだという70歳の中国人の医師チン・ホイランなどが登場した。

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「ミュウミュウ」のランウェイより。左から/クリスティン・トーマス・スコット、アンヘラ・モリーナ、チン・ホイラン。(C)MIU MIU

コレクションのテーマは“人生と共に変化する服”。歳を重ねると共に移り変わるライフスタイルや、成長するに従って変化する身体や内面のように、着る服もまたライフステージによってさまざまな表情に変化するという、人生の変遷を服に投影したコレクションであった。

往年のスーパーモデルが圧倒的な存在感を放つ「ドルチェ&ガッバーナ」

ミラノで注目したのは、完璧に仕立てられた“タキシード”がテーマの「ドルチェ&ガッバーナ」。究極のシンプルさはここにありと、黒尽くしのジャケットやランジェリードレスが提案されたが、ともすれば難易度が高い黒のトータルルックをセンシュアルにゴージャスに着こなしてみせたのは、往年のスーパーモデル達であった。

フィナーレを華やかに飾ったナオミ・キャンベルをはじめ、アンバー・ヴァレッタ、エヴァ・ハーツィゴヴァなど90年代に活躍した、元祖スーパーモデルが勢揃い。全員50歳前後だが、いまだ見事なプロポーションと、放つオーラのダイナミックな輝きは、若さだけでは表現できない豊かさに満ちた美しさであった。

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ドルチェ&ガッバーナのランウェイより。左から/ナオミ・キャンベル、アンバー・ヴァレッタ、エヴァ・ハーツィゴヴァ。(C)DOLCE&GABBANA

スーパーモデル時代から20年以上経過しても、タイムレスな美しさをナチュラルにエレガントに漂わせる彼女たちの佇まいは、多くの女性たちに感嘆と共に勇気を与えてくれたはずだ。

もともと恵まれた容姿の持ち主であることは言うまでもないが、90年代に活躍した全員が今もなお現役というわけではなく、個人差は大きい。年齢にあらがうのではなく、受け入れながら自分の変化に対応していく。日々の健康的な生活や、美容への高い関心、歳を重ねていくことによって生まれる自分への自信、若い頃には持てなかった視点からの刺激や喜びなど、ポジティブな姿勢があるからこそ、歳月を経ても、さらに眩しさが増しているのだろう。

ニューヨークらしさをパワフルに表現した「ヘルムート・ラング」

他の多くのショーにも懐かしの顔ぶれは多い。例えばニューヨークの「ヘルムート・ラング」も、カースティン・オーウェンをはじめ、多様な人種や年齢のモデルを起用することで人種のるつぼ「ニューヨークを着る」というブランドコンセプトを貫いていた。

ヘルムート・ラングのランウェイより。左がカースティン・オーウェン。(C)Getty Images
ヘルムート・ラングのランウェイより。左がカースティン・オーウェン。(C)Getty Images

実際のところ、中年期に差し掛かった、または高齢の女性の個性的な生き方への関心は、ニューヨークの「最高齢のファッションアイコン」と呼ばれ、メトロポリタン美術館でファッションコレクションの展覧会も開かれた実業家でもあるインテリアデザイナー、アイリス・アプフェル(残念ながら今年3月、102歳で逝去)が注目を浴びるなど、予兆はあった。「スーパーモデル」復活も、パンデミックの前から動きがあった。

アイリス・アプフェル。左/2021年9月に行われた100歳のパーティにて。中/2015年9月のニューヨークファッションウィークにて。右/2016年9月のニューヨークファッションウィークにて。
アイリス・アプフェル。左/2016年9月のニューヨークファッションウィークにて。中/2021年9月に行われた100歳のパーティにて。右/2015年9月のニューヨークファッションウィークにて。(C)Getty Images

また、「ジョルジオ アルマーニ」の2016年春夏カプセルコレクション「ニューノーマル」のキャンペーンフォトは、ピーター・リンドバーグによって撮影され、ナジャ・アウアマンを筆頭に一世を風靡したモデル達が顔を揃えた。「40〜50代の女性ならではの、ありのままの美しさがテーマ。肌のシワなど修正もしていない。それこそが、本当の美であることを見直す時期では」とアルマーニは語っていた。


年齢を重ねることでより磨かれ、内面にも深みが出て、それが外見にも若さだけでは補えない魅力が増す。

なんとなく皆が感じていることが、まだ言語化されず抽象的駅な概念として漂っているときに、いち早く「服」や「コレクション」として具現化し、時代に先んじてメッセージを発信する。ファッションは変化する時代の第一波となり、世界に拡散させるパワーがある。

そういう時代を映す波を読み取るのは、コレクション取材の醍醐味でもある。これからの「エイジズム」への対応がどういう広がりを見せるのか、次のシーズンがとても楽しみだ。

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この記事の執筆者
1987年、ザ・ウールマーク・カンパニー婦人服ディレクターとしてジャパンウールコレクションをプロデュース。退任後パリ、ミラノ、ロンドン、マドリードなど世界のコレクションを取材開始。朝日、毎日、日経など新聞でコレクション情報を掲載。女性誌にもソーシャライツやブランドストーリーなどを連載。毎シーズン2回開催するコレクショントレンドセミナーは、日本最大の来場者数を誇る。好きなもの:ワンピースドレス、タイトスカート、映画『男と女』のアナーク・エーメ、映画『ワイルドバンチ』のウォーレン・オーツ、村上春樹、須賀敦子、山田詠美、トム・フォード、沢木耕太郎の映画評論、アーネスト・ヘミングウエイの『エデンの園』、フランソワーズ ・サガン、キース・リチャーズ、ミウッチャ・プラダ、シャンパン、ワインは“ジンファンデル”、福島屋、自転車、海沿いの家、犬、パリ、ロンドンのウェイトローズ(スーパー)